JOURNAL
HOW DESIGNERS MAKE CLOTHES

HOW DESIGNERS MAKE CLOTHES

2022.09.30

HOW DESIGNERS MAKE CLOTHES

デザイナーの服作りの秘密を知る
「SEVEN BY SEVEN」デザイナー 川上淳也

デザイナーの美学と技術、
こだわりの結晶ともいえる洋服。
一着一着に込められたストーリーを
ひも解くべく、
服作りのルーツ、影響を受けた
モノ・コトについて伺いました。

 

渡米して肌で感じた、アメリカ西海岸のファッション観

アメリカ、サンフランシスコは、ビートジェネレーションの作家たちによる思想文学、1960年代末の社会現象サマー・オブ・ラブのヒッピーたちなど、多様な文化が渦巻く街。デザイナー川上淳也さんが20代を過ごし、街の愛称「SEVEN BY SEVEN(セブン バイ セブン)」を冠した自身のブランドを立ち上げるきっかけとなった地だ。

「小学生くらいの頃から漠然と、アメリカに行ってみたいと思っていました。ベタですが、80年代に流行っていた映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『グーニーズ』などの影響もあり、映画で体験した世界を見てみたいという気持ちがどこかにあったのかもしれません。渡米した当時は、決してファッションフリークではなく、ファッションに対する興味も人並み(笑)。ファッションを学びたいとか、デザイナーになりたいという気持ちはありませんでした。だから服飾専門学校もいかず、特に服の勉強らしいこともしていないのでデザイナーとしては珍しいのかもしれません。渡米先がサンフランシスコだった理由も、たまたま相談した人がいたからなんです」

現地で生活を始めて目に入ってくるのは、これまで見たことのない人と景色ばかり。第一印象は強烈だったが、街全体がかもし出す雰囲気に心を奪われた。いわゆるファッションに出合ったのも、サンフランシスコの街を歩き、現地の様々な人と触れ合ってから。人と洋服の関わり方が日本とは異なり、そこに刺激を受けた。

「サンフランシスコの魅力はまず気候。四季があって季節の移ろいを感じるのがいいんです。そして何と言っても、小さい街だけどビートニクやヒッピー、ゲイカルチャーなどユニークな文化が生まれた土地柄、一風変わった面白い人が多く、みんなフレンドリー。僕が渡米した98年当時は、メンズファッション誌が特集を組むようなおしゃなれムードは全くありませんでした。ファッションのトレンドも、日本のような分かりやすい流行がないんです。それぞれのカルチャーに属する各々のスタイルがある。そんな中で自分に合うもの、自分を無理なく表せるものを好きに着ている感じでした。着方、着こなし、着崩し方が上手で、自分をどう見せるかを熟知した感覚には驚きました。おしゃれではありませんが、地に足がついたかっこよさがあり、自分のものにしている。それがスタイルがあるということなんだと思ったものです」

ブランドの誕生と服作りのこだわり

その後、徐々に築いていった人脈から、思いがけずブランドを始めないかというオファーがあり、デザイナーの道に。想定外だったが、服作りは好きでやっていることなので不思議と不安はなかったという。

「ブランド名にした“SEVEN BY SEVEN”という言葉は、サンフランシスコが7マイル×7マイルの広さに収まることから呼ばれている通称。自分を育んでくれた馴染みのある土地であり、響きもかっこいいのでブランド名にしました」

洋服で何かを表現したいというよりは、サンフランシスコのカルチャーに触れてきたので、服作りにも当然何か表れるはずだと考える。

「古着とは以前は誰かのものだったということ。既製品のサイズを直したり、自分らしさや主張を出すために手を加えていたり、もちろん経年変化もする。デニムが擦り切れたら、直し方も人それぞれで、人によって染み付いたものが味として出てくる。『どんな人が着ていたんだろう』とか『どういう背景があって、こういう加工にしたのかな』とストーリーが気になってくるわけです。そこに面白さを感じていました。日本で古着のリメイクというと、作り手が付加価値をつけるために何かしら加工を施しますが、自分は作り手のエゴが見えていないほうが好きなんです。持ち主が機能を求めてポケットを付けたり、何か意味があってワッペンを付ける。そういった理由がある洋服のディテールに惹かれます」

「SEVEN BY SEVEN」は、トレンドよりも着た人がよく見えることを重視して服作りを行っている。シーズン毎にテーマを決めるというよりは、デザイナーが頭の中で人物をイメージして作ることの方が多い。その人物というのも、サンフランシスコの路上にいる人や友達などで、アイコニックなセレブリティではない。

「古着から着想を得たり、ものづくりをするのって、一見簡単そうで実は難しい。アイデアを形にするのも苦労しますが、資材の確保や服として形成できなかったり、オーダーいただいても生産できないことも。一方で、何が出るか分からないワクワク感や驚きは常にあります。古着のリメイクがフォーカスされる場合が多いのですが、今はリメイクの割合は全体の2、3割程度です。古着のレプリカは作っていませんし、資材として古着を使うことはありますが、そこから生地を新しく作っているという意味では新品を作っているのと同じだと思っています」

洋服作りの行程は、まずは古着の収集から。もちろん機屋や工場に足を運んで、現時点で可能な素材づくりや技術のリサーチも行うが、古着の知識や記憶に残っているイメージからデザインに引用することもある。

「古着の再構築についてはまず、ずっと信頼しているルートや古着を扱っている仲間から情報を得て、どの時代のどんなアイテムが資材として確保できるかを調べます。その上で、何を作ろうか考えます。90年代に比べると古着の市場は、アイテムによってはだいぶ枯渇してしまっているから、もうほぼ見つからない物も多い。また昔買えていたような値段では手に入りにくい。そんな中での『SEVEN BY SEVEN』の強みといえば、世の中の流行りに迎合しない点。例えばアウトドアブランドの定番のフリースをあえてニットで作製して表現してたり。どんな人でも知っているオーセンティックな洋服をリスペクトしながら、ひねりを効かせたり、ユーモアを盛り込んで服作りをしているのかもしれません。ギリギリのところを攻めています」

服作りに影響を与えたモノたち

様々な生地をはぎ合わせた巨大なパッチワークの布

「家にあった大きなパッチワークの布地です。これまでに、様々なヴィンテージの布地を見てきましたが、一目で人が作ったということが伝わってくるし、どれ一つとして同じものはない。見ていて飽きがこないんです。特に用途はなくても、こういった生地からアイデアが浮かんだり、実際にものづくりが始まったりしています」

作者不明のハンドドローイングのTシャツとバックパック

「スリフトショップか古着の倉庫で見つけた、誰かが手描きで絵を描いたであろうTシャツとバックパック。Tシャツは描いたのは子供だと思いますが、何だか放っておけない魅力があると思い、所有しています。こういったものにどんな意味や価値を見出して、いくら値がつくのかということを考え始めると、ものが持つ価値はとても面白い。その感覚は人によって大きな違いがありますから」

ローカル色が味わい深いベースボールジャケットとお土産Tシャツ

「ローカル色があるアイテムは、つい手にとってしまいます。特に魅力を感じたのは、ベースボールチームのグッズだからといって簡素なものではなく、アウトドアブランドのColombiaが作っているところ。生地や縫製だけではなく、ファスナーや細部に至る作り込みが見所です。それから、スーベニアTシャツ。同じ街のお馴染みの景色でも、作られた年代によって大きく表現が異なるのが味わい深い。これは、モノトーンが珍しいし、グラフィックもきれいに残っているので気に入っています」

スーツケースいっぱいに収集したジュエリー

「この中にはサンフランシスコの様々な所で入手したジュエリーやアクセサリーを入れています。シルバーや天然石、レザー、樹脂、ガラスなど素材もいろいろ。リングやベルトのバックル、ネックレスにバングル、ブローチなど何でも入れてしまっているので、雑然として埃をかぶっていますが、どれも思い出深いものばかり。大きな馬のモチーフのシルバーブローチなんかは、ジャケットにつけたりしてもかっこいいんじゃないかと思います。開けた途端に、サンフランシスコの街を感じる、そんな空気感が詰まっています」

THE LIBRARY取り扱いアイテム 
デザイナーのおすすめポイント

名作ジャケットをビッグサイズに再解釈

「ブランドを立ち上げた時からの定番ですが、1stと呼ばれる王道のデニムジャケットのデザインをベースに、サイズを大きくモデリングしました。というのも、この形は古着だと小さいサイズしかないんです。でも、サイズが48、50があったら単純に欲しいという思いから作りました。こだわりは先染めの太畝のコーデュロイを使っている点。コットンレーヨンで独特な光沢が別珍にも見えますし、しなかやかで柔らかく体馴染みの良さが特徴です」
1ST TYPE CORDUROY JACKET ¥ 52,800(税込)

プリマロフトフィッシュテールコート

「M-65(フィッシュテールコート)をベースにしたアウターで、オリジナルの特徴をいかしつつ、無駄なディテールをなくし、腕を前振りにするなどシルエットに特徴をもたせてます。中綿素材はプリマロフトという、米軍でも使用している軽くて暖かいマイクロファイバーの中綿です。外側のナイロンも高密度で軽いけど保温性に優れた素材の良さにこだわって作りました。大人でも着やすいように、着丈は少し長めにしています」
INSULATION TANKERS JACKET- Primaloft - ¥ 63,800(税込)

「OUTDOOR PRODUCTS」とのコラボレーション

「OUTDOOR PRODUCTSといえば、バッグをイメージすると思うので、『バッグ専門のメーカーが洋服のポケットをバッグととらえて製作したら面白いな』と考え、パッカブルに収納できるデザインにしました。パンツはポリエステル100%でしわになりにくくしています。シャツは古着のプリントネルシャツに、OUTDOOR PRODUCTSでもよく使用されているコーデュラナイロンでポケットをアソートで付けました」
REWORK POCKETABLE SHIRTS ¥ 28,600(税込)
POCKETABLE PANTS ¥ 30,800(税込)

川上淳也 Kawakami Junya
1978年新潟生まれ。高校卒業後、1998年に渡米。サンフランシスコで膨大な古着とストリートカルチャーに囲まれた生活をスタート。2014年、この街の愛称を冠したショップ「7×7」を渋谷にオープンし、同時にブランド「SEVEN BY SEVEN」を立ち上げる。

 

Photography by Ayako Masunaga
Text by Aika Kawada
Edit by Masumi Sasaki