JOURNAL
Treasures and Memories vol.2

Treasures and Memories vol.2

2021.12.03

Treasures and Memories
わたしたちの宝もの

大切な人からの贈りもの、受け継いだもの、
頑張って手に入れたもの。
そこにはたくさんの思い出が詰まっている。
刻まれた記憶ごと大事にしている一生の宝ものを、
THE LIBRARYゆかりのクリエイターに
見せていただきました。

 

「YLÈVE」デザイナー 田口令子

スタンダードなものの中に込めた、
特別な想いや物語

シンプルで日常に寄り添ってくれる「YLÈVE(イレーヴ)」の服。デザイナーの田口令子さんは、上質なスタンダードの中に、時代の雰囲気や気分を盛り込み、今もその先もずっと長く着ることができる服を作っている。シンプルだからこそ、際立つ上質な素材や仕立ての良さ。糸から厳選し、オリジナルの生地を開発。カッティングやディテールへのこだわりが、「イレーヴ」ならではの着心地を生み出している。

田口さんの自宅のインテリアはものが少なくミニマルだけど、クローゼットや引き出しの中には、お気に入りが素材違い、サイズ違いでずらりと揃っている。そんな田口さんの探究心は、自宅の壁の色にまで広がる。「自分で壁の色をオフホワイトに塗り直すために、いろんなメーカーの塗料を取り寄せました。ひとつずつ壁に塗って、朝、昼、夜と時間を変えて発色を確かめます。一見するとただのオフホワイトなのですが、並べてみると微妙に違うので、時間帯や照明、天候による日光の色の変化でも納得できる色に決めました。もしかしたら、ちょっと変わっている人に見えるかもしれませんね(笑)」

「そして、日常で愛用するのは、シンプルだけどモダンなプロダクト。しかも、これだと思ったら、素材やサイズを揃えて違いを確かめる。「サンスペルのTシャツだったら、今はクローゼットに20枚くらい。色はベーシックに白やネイビー、グレーで、フォルムは、半袖かロングスリーブTシャツなのですが、ウィメンズの1からメンズのXLまで揃えて、それぞれの着方を楽しみます」

また、ソックスもイギリスの「パンセレラ」やイタリアの「コーギ」のものなど、薄いコットンのリブからローゲージ、ウール、カシミヤと素材違いでストックし、友人へのギフトにもするという。「以前、イタリア製のリネンコットンのソックスを履いた時、素材が変わるだけで履き心地が変わることを実感したんです。その時のソックスはもう履けませんが、今も大切にとってあります」

友人にプレゼントするときも、相手の好きなものを考えてまるでコンシェルジュのように選ぶ。「タオルや調味料のように、日常で使いやすいものの中から、その人のことを思い浮かべて、この素材は気に入るんじゃないかと選ぶ時間も楽しいですよね」。このポリシーは、彼女のクリエイションにも表れている。イレーヴといえば、微妙なトーンのニュアンスカラーや、糸や生地など素材へのこだわりを大切にしている服。「スタンダードなものを出発点にして、そこから時代の空気感や着る人を考えてデザインしています。これまであまり意識していませんでしたが、好きなものやギフト選びと、デザインする服に共通するものがありましたね」

わたしの宝もの

九谷焼須田菁華窯の器

田口さんがお母様から譲り受けて、今でも大切に使っているのは、クローバーが散りばめられたモダンなデザインの九谷焼。「家族で加賀の山代温泉に行ったとき、九谷の窯元、須田菁華窯を訪ねました。窯元には歴代の器が揃っており、そこで好きなデザインのものをオーダーすることができるんです。器好きの母がそこで家族分の器をお願いしたときに、ついでにと私が気に入ったこのお皿も注文し、プレゼントしてくれました」。須田菁華窯は約130年の歴史をもち、手仕事を中心とした伝統的な製法を大切にしている窯元で、北大路魯山人との交流も深い。田口さんがお母さんから譲り受けたお皿は、3代目須田菁華が昭和の時代にデザインし、4代目が作陶したもの。

「母の影響からか、私も器が好き。作家ものからインダストリアルものまで、いろんな器を持っています。ほとんどが無地なので、このお皿はテーブルのアクセントになりますね。緑釉のモロッコの器と合わせたり、ちょっとした副菜やお菓子を乗せたりして、たくさん使っていたら、角が欠けてしまって。金継ぎをしようと考えているところです」

バーバリーのヴィンテージトレンチコート

田口さんが宝物のように大切にしている、2着のバーバリーのトレンチコート。ひとつは、田口さんが社会人になったとき、お母様からプレゼントされたもの。「社会人だから1着くらいはトレンチコートを持っていないと、という親心だったのだと思います。たくさん着たのですが、ある時、お茶をこぼしてシミをつけてしまったので、今は自宅で大切に保管しています」。もう1着は、以前の職場でバイヤーをしていた先輩から譲り受けたヴィンテージ。「これは、先輩が海外出張のときに購入したものだそうです。会社の私物用ラックにずっと掛かっていたもので、見かけるたびにとても素敵だと思っていたら、ある時、『令子さんにあげるわ』と譲ってくださいました。素材はウールでブラウン、シルエットも少しタイトという、バーバリーのトレンチコートとしては少し珍しい形です。シックで大人の雰囲気があり、とても気に入っています。先輩からはこのコートだけではなく、経験や知識など、たくさんのものをいただきました。今、私のクローゼットにあるトレンチコートは、自分でデザインしたものを含めて5着あります。その中でもこの2着は特別な存在です」

野田琺瑯のバターケース

それぞれ別の友人からプレゼントされたという2つのバターケース。ともに野田琺瑯製だが、一つはオリジナルで、もう一つはマーガレット・ハウエル ハウスホールドグッズの別注モデル。食品の匂い移りが少なく、冷却効果も高いホーローの器に、桜の木で作られた蓋を組み合わせたシンプルなデザイン。木蓋をまな板がわりにバターをカットして、そのまま食卓に出すこともできる。「バターに凝っている時期があったんです。有塩、無塩、発酵バターという種類でも味わいが違うし、フランスや日本、産地ごとの味わい、メーカーによっても風味が異なるとか、細かな違いを発見することが楽しくて。私がシンプルでモダンなデザインのプロダクトが好きだということを知っているから、これを選んでくれたのだと思いますが、偶然にも、全く同じものでした(笑)」。微笑ましいエピソードも含めて、今でも毎日の食事で大切に使っている。

友人へのプチギフトに
おすすめのアイテム

林タオル・フランジュールのタオル

ギフトのために買い置きしているのは、1951年創業の神戸・林タオルによる「フランジュール」のタオル。ヨーロッパのようにインテリアの一部になるタオルを目指したブランド。「以前からタオルが好きなので、いろんなメーカーのものを買っていますが、林さんのタオルは、オーガニックコットンやスーピマコットン、リネンなどさまざまな素材混率別であるのがツボで、パイル織やガーゼ織などそれぞれに風合いが異なります。スタンダードなコットンのタオルも、基布が柔らか過ぎずコシがあり、ループの立ち具合もバランスが良い。素材の種類ごとの風合いを感じられるところがお気に入りのポイントです。贈り物にするときは、環境への意識が高い人ならオーガニックコットンを、ハイエンドな本物志向の人にはふんわり厚みのあるものなど、その人にぜひ使ってほしいタオルを選んでいます」

こだわりスパイス

よくプチギフトにするというスパイスも、田口さんが実際に味わって感動したもの。「La Plantation(ラ・プランテーション)」は、カンボジア南部のカンボット州にある胡椒農園で、伝統農法を守り、農薬や化学肥料を一切使用せずに栽培されるプレミア胡椒「カンボットペッパー」を扱っている。「よくギフトにするのは、黒胡椒になる前の緑色の果実を、天日海塩で塩漬けにしたものです。とても香りが高く柔らかい食感なので、ミルで挽かずにお料理にトッピングして使っています。レストランを営む友人には、東京スパイスハウスの「チャートマサラ」を、スパイスに詳しい人には、ルビーソルトやアムチュール、クミンなどが入った少しクセのあるミックススパイスを贈ります」

 

Photography:Kikuchi Daisaku
Text:Miho Matsuda
Edit:Masumi Sasaki

田口令子 Reiko Taguchi
「YLÈVE(イレーヴ)」デザイナー。セレクトショップデザイナーを経て、2018年春夏より「YLÈVE」をスタート。服の基本を大切に、素材の質感、シルエット、仕立てのこだわりを重視し、「余白のある服」をコンセプトにもの作りをしている。

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