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HOW DESIGNERS MAKE CLOTHES

HOW DESIGNERS MAKE CLOTHES

2022.04.08

HOW DESIGNERS MAKE CLOTHES

服作りの極意
「blurhms」「blurhmsROOTSTOCK」
デザイナー 村上 圭吾

デザイナーの美学と技術、
こだわりの結晶ともいえる洋服。
一着一着に込められたストーリーを
ひも解くべく、
服作りのルーツ、影響を受けた
モノ・コトについて伺いました。

 

憧れのアイコンと衝撃を受けたデザイナー

THE LIBRARYで男女ともに人気のブランド「blurhms」。無骨なアイテムを繊細な感性でデザインし、緻密な計算のもと丁寧に仕立てられたコレクションは、「どこかで見たことがある」親近感と「見たことがない」新鮮な発見がある。デザイナー村上圭吾さんは、若かりし日のファッションとの出合いをこう振り返る。

「中学生の頃、ニルヴァーナのカート・コバーンに憧れて、彼がはいていたダメージデニムのように自分で古着の加工をしたことです。ジャックパーセルのスニーカーもスウェットも、ボロボロのものを着て真似していました。そうしてアメリカのミリタリー物をカスタムすることにはまり、高校生の頃にはミシンを使って服を作るようになって。パターンがわからないなりに古着のジャケットを解体して生地を乗せて、独学で服作りをしていました。地元の洋服屋さんに自作のミリタリージャケットを置いてもらって、売れたことがいい思い出です」

現在ほど簡単にものも情報も手に入らなかったことから、自ら手を動かして洋服の知見を蓄えていったのだという。その後、あるデザイナーのクリエーションを目にして、衝撃を受けることに。

「マルタンマルジェラには驚きました。解体して再構築する服作りの技法、さらに歪なものから美しさを見出す発想がとても洗練されていたんです。特に、Levi’sやLeeなどアメリカで作られた古着のデニムにペンキを塗ってフランス製のハイブランドものとして打ち出す姿勢、素材選びや組み合わせから値段のつけ方までモードブランドの一貫した態度を感じました」

イマジネーションと多角的な業務経験に
裏付けされた服作り

高校卒業後は服飾専門学校でファッションを学び、アパレル会社に就職。工場、生地開発、販売、生産など一通りのアパレル会社の業務を経験し、2011年には自らのブランド「blurhms」を設立。ブランド名は“blur”と“hmm…”を組み合わせた造語で、「考え抜くことで良いものごとがつくられていくこと」を意味し、デザイナー自身の人間性と心の言葉を表しているようだ。

「とにかく悩みます。服作りの工程は、まずオリジナルの生地を仕込みながら、作りたいアイテムをエクセルの表にまとめて情報を整理していく作業から始めます。生地とデザインを決め、アイテムと組み合わせ、それぞれのサンプルを作ってみて数を絞り込んでいきます。色と値段はなかなか決められない上に、想像を超えてくるようないい生地が上がると作りたいものが増えてしまうので、選定がいつも難航します」

“MD的な感覚”で服を作るのが村上さん流。基本的にメンズとウィメンズのデザインは分けて考え、必ず「自分が着たい」と思うメンズから作業をスタートする。その後、男女共通するアイテムを軸に、ウィメンズのアイテムに展開していく。シーズンごとのコレクションテーマは、特に言葉ではうたっていないという。

「コレクションを作るとき、常に頭の中で想像上の世界のイメージが浮かんでいます。映像作品のように、風景に少し青みがあったりオレンジ色を帯びていたり。テーマを言葉にしてしまうと、その言葉が一人歩きをしてしまい、受取手に誤解を生じるので明文化はしていません。ただ、2022SSに関しては、メンズは風になびく動きがある服のイメージがありました。ウィメンズは、それに加えて青空、浜辺などのイメージが加わって、そこに映えるヴィヴィッドなグリーンなどの色ものを展開しました。シーズンによっては裏のテーマとして、曇った都会の裏路地を歩いているムードや森の中などシチュエーションを想像することもあります」

無骨なものをきれいに作る
「blurhms」らしさとは

アトリエ兼事務所があるのは、下北沢。特に思い入れがある街ではないが、あまりアパレルの会社がなく、開放感のある大きなテラスが気に入ったビルを拠点に服作りを続けている。アイデアに行き詰まると、雑多に並んだ古着屋や古本屋に出向き、資料探しに明け暮れることも。

「常に古着のミリタリーやワークウェアをベースに、服作りをしています。自分の持っている古着のアーカイヴを見返したり、手に入れたものを寝かして『いま、いいんじゃないか』と改めて出して参考にすることもあります。古着を着たいと思ったとき、一番ネックになるのはサイズ感やシルエット。例えばこのジャングルファティーグジャケットは、襟の形を変えていますが、他にもサイズ感とシルエットを自分好みに整え、オリジナルからはディテール要素のみ残して生かしています。裏の縫い代も巻いて処理をし、見た目はアメリカものでも、中の仕様はイタリアものみたいな感覚。やはり丁寧に作られていると、洋服を大事にしようと思えるじゃないですか」

とはいえ、せっかく美しく仕上がった洋服にあえて洗いをかけ、乾燥機に入れたり、釣り干しにしたりする。ブラームスの服作りには、デザイナーの言葉通り、「美しいものを使って汚いもの作りたい」という一貫した美学がある。それは生地作りにおいても同じだ。シルクにポリエステルを混ぜたり、ウールの糸に洗いをかけてリップのある風合いを出したり。相反する要素を掛け合わせて手荒な加工をすることで、生地のアップデートを繰り返してきた。

「オリジナルの生地作りに、産地巡りは欠かせません。過去に縫製工場の仕事に携わってきたので、日本の繊維業界や工場の内情には詳しい方だと思います。縫う人は海外の方も増えてきていますが、日本の工場の品質管理には絶対的な信頼がある。日本に生まれたからには、日本製にこだわりたいし、ちゃんとわかった人間が最後まで服を作ることを大切にしたいと考えています。無理を承知で依頼した生地の縫製も、頑張って挑戦してくれる点に職人のプライドを感じますし、有難いです。ゆくゆくは、自社の工房を持ってみたいですね」

服作りに影響を与えたモノたち

イメージソースとなる写真集

「本を開いて見た瞬間に、スッと入ってくる美しい構図の写真に惹かれます。Mapplethorpe『PISTOLS』は、常に自然界の造形美には勝てないと思わせてくれるんです。あとは、ロバート・メイプルソープが花を撮る意外性もいいですよね。服を作る上でもルックを撮影するときも、なんとなく人物像があったほうがいいと考えているので、人の写真も好きです。直接的な影響は見られないかもしれませんが、自分の中にイメージが刷り込まれているんだろうなとは思います。

Koto Bolofo『THE PRISON』(写真・左)は、刑務所の様子を収めた写真集。プリズナーの作為的には作れない世界観に目を奪われます。Ken Schles『INVISIBLE CITY』(写真・手前)は80年代のまだ治安が悪かったときのNYのストリートの生々しさがわかる本。どの本もどこか退廃的な雰囲気で共通点があるように思います」

ヴィンテージのモーターサイクルコート

「モーターサイクルコートは、イギリス軍に所属する物資の運搬や伝達係のバイク乗りのために作られました。ほとんど見たことがなかったイギリス軍のものを初めて見たときの衝撃が忘れられなくて、今でも手元に置いて時々眺めています。

古着やヴィンテージは数多く所有しているのですが、これは物自体が持つ圧倒的な迫力と雰囲気、用途に合わせてつくられた裾がパンツになる仕様、丈夫な分厚い生地とボンドによる継ぎ目、経年劣化した表情に魅力を感じます。気に入った佇まいのものから、服作りのインスピレーションをもらうことも少なくありません。現在もこのコートから派生したデザインのアウターを作っているんです」

Paul Harndenのコート

「ポール・ハーデンのコートは、服作りをする上でたくさんのインスピレーションをくれる一着。昔のヴィンテージのウールのような使い込んだ質感、風合い、手触り、裏地はコットンで滑りが悪く着づらい。おまけにかなり重たく不便なアイテムなんですが、独特のかっこ良さとムードを持っていると思います。

既製品については使いやすくきれいに仕上げられたものを見てきた反動なのか、デザイナーものは多少使いにくいほうが味があって惹きつけられてしまうんです。マルタンマルジェラにも通じる、どこか歪な美学を感じます」

New Balanceのスニーカー



「ニューバランスのスニーカーは、好きで集めています。特に好きなポイントは、独特なグレー使い。チャコールグレーが一番好きな色なので、色使いや配色、素材の組み合わせが見所。もともとアメリカではニューバランスといったら典型的なおじさんが履く、いなたい靴という認識でしたが、グレーをベースに、時代によって様々なデザインと色の提案があることがわかるので、集めていて面白いです」

THE LIBRARY取り扱いアイテム 
デザイナーのおすすめポイント

「人気品番のカーディガンジャケット。ラフに着られるジャケットが欲しいと思い作りました。肩が少し落ちるボックスシルエットでボタンはなし。襟の表情が絶妙でコーディネートしやすいと思います。ドレスを作るような細かい運針で縫っているので、内側もとてもきれい。ウールにシルクを38%混ぜて平織りにし、生地の状態で洗いをかけ乾燥機にかけています。さらに製品に仕上がった後にも洗いをかけて少しぼこぼこした風合いにしています。イージーケアで日常的に気兼ねなく着られます」
SILK WOOL TROPICAL CARDIGAN JACKET ¥ 59,400(税込)

「ワイドイージースラックスは、バランスのいい迫力のあるシルエットがポイント。かなりたっぷりとタックを取っているので、縦に立体感のあるパターンで、きれいなワイドシルエットが出るデザインです。洗いをかけた綿100%のギャバジン地で作られています。さらに、ベルト内側の紐でウエスト調整ができるので、好みの着こなしができます」
DRY GABARDINE SUPER WIDE EASY SLACKS ¥ 41,800(税込)

「スタンドカラーシャツはオーガンジーのような見た目ですが、綿100%。ストレッチは入っていませんが自然な伸縮性があり、一見化繊にも見えるようなシャリ感と光沢があります。ベーシックなアイテムでも、素材にちょっとしたひねりを加えるようにしています。また、サイドに付けたマチはワークウェアによくあるディテールで、裂けにくくする補強のために付けられているんですよ」
HIGH COUNT CHAMBRAY STAND-UP COLLAR WASHED SHIRT ¥ 26,400(税込)
村上圭吾 Keigo Murakami
アパレル会社に就職し、工場、生地、販売、生産など一通りのアパレルの業務を経験した後、2011年に自身のブランド「blurhms(ブラームス)」設立。上質な原料から生地の開発を手がけ、ミリタリーやワークウェアなどの古着をベースにした、着用時のバランスやリラックス感と着心地の良さを追求した洋服を提案している。日本の職人と技術者による繊細で卓越した縫製や加工に定評がある。

 

Photography by Daisaku Kikuchi
Text by Aika Kawada
Edit by Masumi Sasaki