JOURNAL
Treasures and Memories vol.1

Treasures and Memories vol.1

2021.11.26

Treasures and Memories
わたしたちの宝もの

大切な人からの贈りもの、受け継いだもの、
頑張って手に入れたもの。
そこにはたくさんの思い出が詰まっている。
刻まれた記憶ごと大事にしている一生の宝ものを、
THE LIBRARYゆかりのクリエイターに
見せていただきました。

 

「CIRCUS」鈴木善雄 / 引田舞

時間と人が生み出すものの
遊び心と面白さに惹かれる

THE LIBRARY 表参道のインテリアを手がけた、内装デザイン&ディレクションを行うユニット「CIRCUS(サーカス)」を主宰する鈴木善雄さんと引田舞さんご夫婦。無国籍で時代も入り混じった、モダンだけど温かみのある空間を作り出す。自宅や事務所にも、アンティークの家具や古いオブジェに調和するように、新しいプロダクト、作家の作品が共存している。ここは二人の好きが詰まった、愛すべきものが溢れる小宇宙なのだ。

初めてご夫婦で一緒に取り組んだ仕事だという、新木場にある複合スペース「CASICA」のプロデュースは、二人のセンスが違うからこそ成立していると舞さんは話す。「役割を分けるなら、私はメインでプロダクトや作家さん担当で、彼は古物担当。好きなものが揃ってしまったら、お客様もきっとつまらなくなってしまう。こんなものも、あんなものもあるというセレクトに幅があるから面白い。だからお互いの好きは貫いていこうと思っています。でも、オーダーをするときは、相談し合って二人が納得したものを選ぶようにしています」

「僕たちの趣味は完全に一緒ではないので、えっ、それ?みたいなことはよくあって、その繰り返しです。いくら僕が好きでも全く違うと言われたら買わないし、一応、二人の円が重なる共通部分で選んでいます。でも結婚して一緒に暮らしていくと、最初は結構離れていた円がだんだん近寄ってきて似てきました。でも決して同心円にはならないし、絶対的に違うところはあったほうが面白い」と善雄さん。

ともに暮らすことでお互いの要素がミックスされ、子どもが生まれ、家族が増えてさらに変化してきた。好きなものが変わっていくのは当たり前だが、それでも変わらずに好きであり続けられるものもある。今回選んでくれた宝ものがまさにそれだ。

「古いものを扱うことが多いので、新品でもそれらと自然になじむものという視点で選びます。いわゆる民藝や工藝品も元は量産品だったのが長い年月をかけて味のあるものになっていく。だから何十年何百年経った先には、アンティークになりうるようなものを取り入れたいと思っています」。そう語る善雄さんは、例えば、美術館と博物館でいうなら、博物館のほうが好きだという。「博物館は展示が体系化されていて、同じように自分たちの事務所の棚も、石でできているもの、金属、自然のものというように分類しています。金属製であれば、皿もオブジェも同じ引き出しに収納しています。事務所にあるものは、もちろんほとんど売り物ですが、収集するだけでなく、実際に使ったり、部屋に飾ってみて、ここにこう置くとはまるんだという意外な親和性を知って楽しんでいます」

キャンプ用品をリサーチしている時に見つけた飛行機のギャレーの収納ボックス。キャンプ道具をしまうのに最適だという。

「大切にしまい込むということはほとんどありません。使いたいし、飾りたいから買うという発想です」と舞さんも同意する。「持ってることだけに満足するタイプのコレクターではないので、人にも見せたりして面白いでしょと伝えるのが楽しい。それに人も好きだから、作品を見てかっこいいと思い、会いに行く作家さんがどんどん増えて、こんなに楽しい仕事があっていいのかと感じています」

作り手の顔が見えることが、プロダクトにはない作家ものの最大の魅力。CASICAでも作家の代わりに愛情をもって、売ってあげたいと思える人のものしか扱わない。作品プラス作家の思いや人間性も込みで伝えるのが、ものに惚れ込んだ二人のやり方だ。それは仕事もプライベートも変わらない。

「好きなテイストはありますが、古くなければいけないとか、新しいものでなければ、作家ものでなければという決まりはなく、単純にいいと思うものは対等です。ただ共通して言えるのは、何か一つ選ぶにもかなり真剣にリサーチして、お互いにプレゼンし合って納得のいくものしか買わない。これでいいやという買い方はしません」。リビングのソファも、なかなか気に入ったものが見つからず、しばらくは床に座っていたが、やっといいものに出合えて購入に至ったのだという。

「内装や設計の仕事も機能性だけを追求して合理的に作ったら、ただの四角い箱になってしまうので、どれだけ無駄なことをするか、遊びがないと、なんか寂しいですよね。そういう意味では、うちにあるものはほぼいらないものなのかもしれません」。サーカスの二人にとっての宝ものは、生活を楽しく面白くするのに欠かせない要素。愛着を持てるもの、好きなものに囲まれて暮らすことこそ、豊かさであり、快適さなのだと教えてくれた。

わたしたちの宝もの

木工作家 吉川和人のテーブル

二人がプロデュース・ディレクションを手がける複合型スペース「CASICA」で2020年に個展を開催し、そのときに展示した木工作家・吉川和人のテーブル。「普段は器やカトラリーなどを作ることが多い作家さんですが、家具の受注を始められる段階でファーストサンプル的に作られた、ご本人にとっても大切な1台を事務所用に迎えました。古家具が中心の自宅と事務所ですが、古いものともマッチする丁寧なお仕事に、背筋の伸びる大切な作品です」(舞さん)

「楡の無垢材を使ったテーブルは流通量も少ないので珍しい。デザインも日本の食卓サイズに比べると、天板の奥行きが短く横幅は長いという独特のバランスが美しい。天板に節の穴が開いたままだったり、クリアな質感の仕上げはシミも汚れも付きやすいけれど、長い時間をかけて育てていきながら楽しめそうです」(善雄さん)

ガラス作家 ピーター・アイビーの
照明器具

自宅の温室部分に飾っているガラス作家ピーター・アイビーのライト。「前からいつかほしいと思っていましたが、温室をリフォームする際に、アンティーク タミゼで購入しました。先に使っていたアルミニウムのチューブランプが横型デザインなので、ピーターさんの縦型のライトと2つ並んでいたら面白いバランスだね、と2人で話し合って決めました」

舞さんのご両親のギャラリーfèveでスタイリスト高橋みどりさんの個展を開催したこともあって、ピーターさんとコラボレーションしたKOBOシリーズも愛用している。「グレーがかったガラスの色と無駄を省いたシャープなデザインがかっこよくて気に入っています。昼間は燦々と光が降り注いで爽やかな印象ですが、夜はちょっと怪しい実験室みたいな雰囲気になり、昼夜の表情の違いを楽しんでいます」(舞さん)

RIMOWAのスーツケース
「クラシックフライト」

善雄さんが結婚する前から愛用しているアルミニウム合金のリモワのスーツケース。「15年くらい前、初めて自分で買ったスーツケースがリモワのクラシックフライトでした。ポリカーボネート製のタイプもありましたが、せっかく海外旅行に行くならと、当時の金銭感覚からしたらすごく高価でしたが、安いものを買って飽きてしまうよりは、一生ものをと、思い切って購入しました。

見た目が本当に好きで、空港でバンバン投げられてへこんで、使っていくうちに味が出てくる。そこに詰まっている旅の歴史ごといつか子どもに譲りたいと思います。最近は買い付けのための海外出張と旅の目的も変わり、大きいサイズに切り替えてしまい、出番が減りましたが、国内の家族旅行には車に積み込んで使い続けています。一生捨てるつもりはありません」(善雄さん)

YLÉVEのセットアップ

普段は古着をスタイリングすることが多い舞さんは、新しい服を買うときも、古着に合わせて遊べる余白のあるものを選ぶ。そんな舞さんが愛用しているのが、ジャケットスタイルなのに、ボトムは短パンで外したイレーヴのセットアップ。スタンダードの中に一癖あるデザインが好みなのだという。

「ただマニッシュやミリタリーのテイストを加えたのではなく、きちんと軸を持ってブランドの世界観に昇華させていて、普遍的で絶妙なモード感があるのがいいなと思っています。 一見シンプルですが、ちょっとした襟の大きさや、短パンのワイドさの加減などディテールが計算されているので実際に着ると、わかることがたくさんあります。私はこのセットアップを自分らしく編集して、白いタイツを合わせたり王子様っぽいイメージでカジュアルに着ています」(舞さん)

susuriのモーニングコート

5年前の結婚式の際に、友人のブランド「ススリ」に作ってもらったウエディング用のモーニングコートを、丈を短く直して愛用している善雄さん。「僕が若い頃に桜新町の酒屋でアルバイトをしていた時の同僚が、その後、結婚してパートナーと2人で立ち上げたブランドがススリです。たまに連絡を取り合ってはいましたが、ちょうど結婚式の衣装をどうしようかと相談していた時に、きちんと会話しながら作ってもらえる関係性の人にお願いしたいと思い依頼しました。

僕は黒いハットとストロー素材のボウタイを着けることだけ決まっていて、あとはお任せでしたが、もともと彼らが作っていたサスペンダーパンツが可愛かったので、それに合うフルレングスのガウンコートになりました。ずっと大切にしまっていましたが、寝かしておいても仕方がないし、かといってそのままではドレッシーすぎて普段着られないので、着やすいように30cmほど丈を詰めました。今はステンカラーコートのように活躍している、思い出深い一着です」(善雄さん)

Photography:Kikuchi Daisaku
Edit & Text:Masumi Sasaki

CIRCUS サーカス
鈴木善雄と引田舞が主宰する、店舗のプロデュースや内装設計を行うクリエイティブユニット。東京・新木場の複合スペース「CASICA」では古物の買い付けからイベントの企画、ブランディングまでトータルにディレクションを行う。また、架空のパン屋「TAKIBI BAKERY」、過去の文献から紐解いた家具を再構築する「焚火工藝集団」の代表も務める。
https://circus-co.com/