New Horizon in Shigaraki Ware

伝統ある陶器の産地である滋賀県信楽にて、ユニークな陶器のプロダクトを展開する「NOTA & design」主宰の加藤さん。表現するうえで、大切にしていることはなんですか? ありそうでないものを作りたい、というシンプルな思いがあります。かつて信楽焼で使われていた意匠などを取り入れたり、別の要素と掛け合わせて再構築したり。むやみやたらに新しい表現を追求するのではなく、自分が暮らす土地の歴史や強み、技術を引用しながら、時代に合わせてアップデートしていく。そういうモノづくりの姿勢を大切にしています。

左:ENTOTSU mini 13,000円(税別)
右:TONNE 22,000円(税別)

伝統的な陶芸工房が点在し、一方で陶芸専門の美術館があり、国内外の大御所から気鋭の陶芸家まで滞在制作できる環境が整う信楽。陶芸のさまざまな要素が混在する土地で製作するメリットはなんですか?

産地ゆえに素材や釉薬などに長けた専門業者が多く、相談できる相手がたくさんいることですね。過去何百年という技術の蓄積がありますから。ほかの産地は器類がメインですが、信楽は大きいものも作れるので、タイルなどのエクステリアや美術品、インテリアまでと表現の幅が広く、ハイブリッドな土地柄です。ひと昔前は産業、美術、クラフトとジャンル間の分断がありましたが、近年は国内外の交流も含めて、その垣根もなくなっています。恵まれた製作環境と、さまざまな作り手たちと触れ合えるユニークな環境が信楽にはあります。

2017年には製陶所を改装したショップ「NOTA_SHOP」をスタート。骨董や同世代作家の展示販売、イベントなど開催するなど、信楽のモノづくりのプラットフォーム的役割を果たしていると思います。オープンさせた動機はなんでしょうか?

自分の町には、機能の外にある価値や美術的な感性にアンテナを張れるような人々が集まる場であって欲しいという理想があります。美容師でも料理人でも編集者でも、どんなジャンルでも構わない。どの分野にも美しさや面白さの基準はあると思っていて、その水準の底上げができる場があればと感じて作りました。薄暗い場所で作務衣を着たおじさんが黙々と作業しているような、陶芸に対する所謂ステレオタイプを刷新したい気持ちもありますね。

さまざまな作家の展示を行っていますが、選ぶ基準はありますか?

素材へのアプローチが真っ当で矛盾がないこと。フォルムが有機的なこと。先代を安易にコピーせずに、表現にとことん向き合っていること、の3点です。過去の真似ごとなら、過去には勝てませんから。機能と装飾が共存していて、なおかつその振れ幅の大きい作品が好きですね。優れた作品には、さまざまな解釈を良しとする余白があります。自分だけの世界で終わっていなくて、作品を通じて社会と対話をしている。ある意味、社会性が高いものだと思います。

VASE write series 13,000円(税別)

近年は空間ディレクションも手掛けるなど、活動の幅が年々広がっていますね。加藤さんの強みはなんだと思いますか?

陶芸の世界に入るまで、興味の赴くまま色んなジャンルを経験して遠回りしてきました。それぞれの世界での感性を学んだことで、リクエストが来たらそれに応える翻訳能力が身についたのかもしれませんね。そういうジャンルレスな感性は長所だと考えています。なにかひとつのモノで表現をするのではなく、陶芸やグラフィック、空間構成などを自分で手掛け、横断することで全体感を生み出す。自分の強みは、そこにあると思います。

今後どのように発展させていきたいですか?

これだけ多方面に可能性のある土地にいるので、クリエイティブな精神や思想が根づくような活動や、有志が集まるような土壌づくりをしていきたいです。将来に対して危機感もありますしね。その第一歩として、書籍を作りたいと考えています。国内外の視点で、自分たちの活動、ひいては日本のクラフトを再定義してくれるようなもの。タコツボ化することなく、常に開かれた場所を目指していきたいです。

NOTA & design
2015年、加藤駿介が日本六古窯のひとつに数えられる信楽焼の産地、滋賀県信楽町にて設立。陶器を軸に、ライフスタイル全般のデザイン、制作、販売を行う。2017年には、信楽内外の工芸作家の作品、骨董品などを取り扱う「NOTA_SHOP」を工房敷地内にオープン。

イベントのお知らせ
NOTA & designによる信楽焼きのPOP-UP EVENTを開催致します。
会期:1月31日(金)―2月9日(日)表参道店、京都バル店

Clay As Multiple Meanings

『Fernando Casasempere / ORBRAS WORKS 1991-2016』
出版社:Hatje Cantz(2016 年) 価格:7,500 円(税別)

チリ出身のフェルナンド・カサセンペーレはスペインのバルセロナで彫刻を学んだのち、生まれ故郷であるチリのサンティアゴに戻り、チリや北米での展覧会を重ねながら国際的に活躍の場を広げてきた。1997年にはロンドンに制作の拠点を移して活動を続けている。

カサセンペーレは粘土を成形して焼成するという、陶磁器制作の伝統的な原料や制作方法を用いているが、コンセプトやアプローチは工芸の枠に止まらない。特徴のひとつめが、素材に用いている粘土だ。彼はロンドンをベースとしてからも、故郷のチリで採れた粘土を用いている。チリは銅の産出大国で、世界流通量の27%以上が産出されているそうだ。銅の採掘がチリの経済を支えている一方で、過剰な産出で鉱山が荒廃し、深刻な環境問題を引き起こしているという。カサセンペーレが用いているのは採掘によって廃棄された鉱山の土で、独特な緊張感は、素材の土が宿している歴史的・文化的背景に由来するところもあるだろう。

ふたつめの特徴は制作テクニックにある。彼は成形の際に機械や技術に頼るのではなく、指や腕、全身を用いて身体の痕跡を残す。作家と素材との密接な交信が、ミニマルでありながら有機的なフォルムを生み出している。 作品が生み出される母体となっている地球や文化との関係性を、素材とテクニックで結晶させたカサセンペーレの作品は、現代社会が抱える問題を厳かに提示し続けている。 〈文:中島佑介(「POST」ディレクター)〉

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