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Physicality Created the Meaning

ー「見る」という行為から来るヒトの認識や理解について、大きな問いを投げかける作品だと感じました。これらの作品が生まれた背景を教えて下さい。

このシリーズに近しいスケッチを描いた後、改めて見た瞬間に「これを描いてみたら面白んじゃないか」と思いつきで始めたことがきっかけです。7 年ほど前になります。コンセプトありきで始まったものではなく、描き続けるなかで作品の意図がだんだんと明確になってきました。身体で創っていったといいますか。ポートレイトというジャンルを選んだ理由は特にないのですが、普遍的なジャンルゆえにオリジナリティが発揮できるのではという期待はありました。

ー作品がどのように制作されるのか、そのプロセスを教えて下さい。

大きく分けて、3 つのプロセスがあります。まず、A4 のケント紙に絵具をたっぷり使って下絵を何枚も描きます。物理的に絵具が盛り上がった、ドロッとした質感の小さな画です。その中から気に入ったものだけを写真に撮り、データ化してパソコン上に取り込みます。ソフトウエアを使い、作品のサイズであるキャンバスの30 号に拡大した時の最適な構図の検討に入ります。作品における設計やデザインといいますか、一番時間をかけるところです。この段階で色味などを納得いくまで調整します。最後にその画像データを参考にしながら、キャンバスに忠実に再現していくという流れです。以前は大分時間がかかっていましたが、最近だと1ヶ月ほどで描き上げます。

ー絵画というアナログな表現に、デジタルを挟み込むプロセスが現代的で興味深いですね。二つを行き来することは、なにか理由がありま すか?

構図や色味の微調整は、アナログでもできます。デジタルではできないという作業ではありません。もともとグラフィックデザイナーの仕事をしていたので、使い慣れたツールを取り入れたことが大きな理由です。自然とこの手法に辿りついたわけで、意識的にコンセプチュアルな要素を作品に組み込みたかったということではなく、自分が持っているスキルを生かすことで制作時間の短縮に繋がりました。

《絵画のための習作》
2013 年 紙にアクリル絵具、木製パネル 53.0×41.0cm

ー作品の根幹である下絵は、どのように決まるのでしょうか?

直感です。自分の頭だけで考えうる情景を超えて、偶然出来上がる形があります。その下絵になにかを感じ取れたら採用しますね。こういうものを描きたいと思っていても、自分の想像通りにはなかなかなりません。コントロールできない分、偶然性に委ねる部分も多く、期待や想像を超えるものが生まれると思いますし、それを目指しています。それまではひたすら描き続けるので、時間がかかりますし苦労もしますね。

ー画を描くために続けている習慣は、なにかありますか?

感覚を保つため、出来るだけ毎日描くようにしていますね。描かないでいると、視る感覚や描く感覚が鈍ってくるので、ほかの用事があって絵を描けない日であっても、数時間でも数分でも筆を持つようにしています。また、毎日同じ条件で描くようにもしています。翌日の朝、今朝と同じように作業を始められるよう、筆をよく洗い、同じ場所に道具を置いて作業を終えます。出来るだけ光の具合が一定になるような工夫です。基本的には月曜日から日曜日までの工程がある程度決まっていて、そのルーティンを可能な限り続けています。時折、創ることと生きることは、切っても切れない関係にあると思える時があります。格好をつけていえば、生きることを続けている、でしょうか。

ージャンルに限らず、影響を受けた作家を挙げるとしたら誰ですか?

さまざな作家に影響は受けているのですが、一番はゲルハルト・リヒターです。絵画を絵画たらしめるものを追求する、という主題を持って制作している彼の手法やコンセプトの延長上に、僕の画は存在していると思っています。彼の作品を知ってから、芸術というものをよく考えるようになりました。最近は、ゴッホやマティスなど巨匠の自伝やインタヴュー集をむさぼるように読んでいますね。この先どうしようかなと考える指針に、先人たちがやってきたことを今になって勉強しています。

《絵画のための絵画 011》
2017年 紙にアクリル絵具、木製パネル 91.0×72.7cm

武田鉄平 Teppei Takeda
1978年、山形県生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。個展「絵画と絵画、その絵画とその絵画」(KUGURU、山形市、2016年)をきっかけに、作品が知られるようになる。2019年、東京初個展「Paintings of Painting」(MAHO KUBOTA GALLERY)開催。同年、ファビアン・バロンのデザインで、作品集『PAINTINGS OF PAINTING』(ユナイテッドヴァガボンズ)が刊行された。

Beneath Your Mask

『mono.kultur #31: Michael Borremans』
出版社:mono.kultur(2013 年) 価格:1,400 円(税別)

ベルギー出身の画家ミヒャエル・ボレマンス。学生の頃は写真を学び、1990年代中頃からはドローイングや絵画に目を向けるようになり、古い写真などからインスピレーションを受けた作品を制作し始めた。33歳で美術の修士号を取得、教師をしながら制作活動を続けるうちに、彼のサポーターである画家による紹介がきっかけとなってアントワープのギャラリストと知り合い、それからまもなくして大規模な個展が開催されることになる。その後は着実に美術界での評価を高め、現在では世界の主要な美術館に作品が収蔵されるスター作家となった。

人物を多く描いているボレマンスの絵画は独特だ。ヒトの体が半分だけテーブルに乗っていたり、首から上が無いように見えたりと一見残酷だが、不気味さはありながらも決して単なる残酷な絵画ではない。不気味さと親密さが共存しているのが特徴的だ。

もうひとつの特徴は、被写体が下や横を向いたり、後ろを向いたりして表情がはっきりしないことが多い。理由は個人を描いているのではなく、人の存在自体をモチーフにしているからだという。また彼は「この世界の残酷さを可視化してそれに向き合うため絵画制作を行なっている」とも語っている。絵の中での事象に向き合っている人物は、私たちを含む全ての人間を象徴しているのだろう。ボレマンスの肖像は、彼や彼女の肖像でもあり、間接的には私やあなたの肖像でもある。 〈文:中島佑介(「POST」ディレクター)〉

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My Favorite Thing(s)

モノと使い手には十人十色のエピソードがある。
THE LIBRARY のスタッフが綴る、『わたしの偏愛小噺』。

 


癒し、時々旅情
守田規子(神戸店)

アメリカ・ポートランドに留学していた友人が、地元土産にとプレゼントしてくれたことがきっかけで飲み始めた 「スティーブン・スミス」の紅茶。いまや朝昼晩と1日3度飲むほど、日常に欠かせない存在になりました。紅茶好きが高じて、その一大産地であるスリランカで茶摘体験をしたことも。摘み作業にはコツがいるから時間がかかったり、摘んだ茶葉も形が悪かったり。可笑しいかな、早朝だったことも手伝ってか、大変だったことばかり思い出します。とりわけ、「BLEND: No.23 KANDY」を飲むたびに頭に浮かぶのは、大好きなスリランカの風景。ココナッツの樹々が茂るビーチ、ピンクやブルーの鮮やかな壁の小さな家屋、日に焼けた肌に真っ白な制服を着て闊歩する学生たち。そして、現地の友人宅で食べた、家庭料理のなんともいえない素朴な美味しさ。そんな愛おしい思い出に浸るのも、私ならではのティータイムの楽しみ方のひとつです。

想いをつなぐ
岡本考司(京都店)

初めての就職時に購入した「ロンジン」とは、かれこれ14年ほどの付き合い。実用性を重視して、一番ベーシックでシンプルなモデルを選びました。オーバーホールする度に愛着が湧き、メンテナンス代だけでもう1本買えるほどですが、モノとはほどほどの距離を保つ主義。神経質にならず、自然体で使っています。レザーベルトの付け替えで表情を変える、シンプルゆえ持ち主の個性が際立つといったことも、身に着け続けることで気づいた面白味です。いわば、自分らしさが滲み出てくるアイテムなのかもしれません。情報やモノがこれだけ溢れる世の中で、淘汰されずに残っているモノは、必然的に誰かの「想い」に支えられていると思います。大事にしたい、残したいといった気持ちが先にあって、結果として物質が残るというか。価値観を持ってモノをび、時間をかけて愛用していく。将来息子からこの時計が欲しいといわれるように、これからも大事に想いを刻んでいこうと思います。