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JOURNAL
HOW DESIGNERS MAKE CLOTHES

HOW DESIGNERS MAKE CLOTHES

2023.02.22

HOW DESIGNERS MAKE CLOTHES

Conversation with “Y”

YLÈVEによる新しいカジュアルライン「Y(ワイ)」について、
アドバイザーの金子恵治さんと、デザイナーの田口令子さんのお二人に
<Yが生まれた背景と狙い>、<Yの服づくり>、<「Y」の着こなし>の
3つの視点からお話をうかがいました。

Yが生まれた背景と狙い

─── YLÈVEは2018SSにウィメンズブランドとして誕生し、2022SSにメンズとアクセサリーラインが加わり、続いて2023年SSからはユニセックスのカジュアルライン「Y」が始動しますが、アドバイザーとして金子恵治さんを招いて新しいラインを開設するに至った経緯をお聞かせいただけますでしょうか。

田口 まずひとつは、以前からYLÈVEとして良質な素材を用いた 「カジュアルな定番ウェア」を展開していた中で、世の中には似た考えのアイテムがたくさんあるけれど「程よいもの」ってあまり無いのでは、と思ったんです。特にコロナ禍で家で過ごす時間が多くなって、屋内外の境界線みたいなものがあいまいになっているときに、家の中でも外でも、日常の延長にあるちょっとした“非日常”みたいなシーンで着る服、頼りになる、特別な背伸びも要らない等身大のカジュアルウェアって、意外と無いのかなって。もうひとつは、効率の面です。YLÈVEのウィメンズとメンズの一部でユニセックスとして同じデザインのアイテムを作っていたのですが、同じとはいえパターンは別々なので、重複するプロセスがあったんです。もちろん必要なことだとは思うものの、効率を考えるとジレンマも感じていたというか……。

─── もともとYLÈVEの中で作っていたユニセックスでカジュアルで汎用性の高いゾーンを、別のラインとして抽出して専門化していくような?

田口そうですね。そういうのをやったらおもしろいかなって思ったのですが、実際に自分一人でやると、できるものが見えているなと。

─── できるものが見えている、とは?

田口ベーシックなカジュアルウェアを作っていくと、自分の「癖」じゃないですけど、始める前から読めてしまうところがあったので、そこに何か新鮮さとか違う視点が必要だと思いました。そして性別や年齢の境界が解けるユニセックスの服づくりに対して、私一人ではなく男性の方と一緒にと思って、コラボレーションなどでお世話になっていた金子さんに相談させていただきました。

─── 金子さんとしても、そういった狙いに共感されて?

金子そうですね。僕はどちらかというと、すごく男っぽいこだわりを持っていて。お互いに「こだわり派」なところがありつつ、でもこのプロジェクトはある意味「こだわらない服」というか。そういう未体験のところを行くのは僕としてもチャレンジングでおもしろいかなって思いました。田口さんも言うように、自分でゴールが見えちゃうようなものって正直ワクワクしないし、どこに向かっていくんだろう?っていう感覚に対しては、僕もどん欲でいたいというか。

─── あらためてこうして完成したコレクションを見渡してみると、やはり自分一人じゃできなかっただろうなっていうものが揃ったと思いますか?

金子もちろんそれもあるのですが、これまでの関係性もあるので、多少は予想できる部分もありました。こういうアイテムを提案したら、何となくこういう感じになるかなぁみたいなイメージは湧くんですよね。田口さんが好きそうな料理方法っていうか。でもそれが見えないと僕も提案できない部分もあったりして。そしてその先はやっぱり僕一人じゃ出さないような答えに行きつくのがおもしろかったですね。二人で話してこそ引き出されるものもあって。

“加減”を共有させてくれた卵サンド

─── 「Y」というブランド名はどのように決まっていったのですか?

田口最初は仮で、便宜上「Y」としておこうという感じだったのですが、制作を進めているうちにだんだん馴染んできて最終的にそれがいいかなって。

金子唯一ブランド名に関してはあまり話し合わずというか、アイテムの話ばかりしていたら、最後に残っちゃって。仮称で呼んでいるうちにそのまましっくりきましたね。

田口そういえば卵サンドの話もしましたね。

金子そうそう、卵サンドの話が結構、大事でした(笑)。

─── どういうことですか?

金子以前僕が、自分のクローゼットのコアな部分を引き出した「SABA」という硬派なブランドをやっていて、周りのみんなにサバサンドみたいだねって言われたのが由来なんですが(笑)、サバサンドって何が特徴かよくわからないけれど、でも時々無性に食べたくなる。 “飽きる”とか、そういう次元じゃないですよね。そういう考えが自分にしっくり来るんですって話をしていたら……。

田口はい。硬派なサバサンドがあるなら「Y」は卵サンドのようなものですよって。デイリーで、手軽で、大体の人が好き。凝りすぎずに、加減や塩梅も含めて、卵サンドぐらいのテンションがこの「Y」はちょうどいいんじゃないですかって話をしたんですよね。

金子そのイメージがあることによって、いい意味でふたりとも肩の力が抜けるというか、つい「洋服を作る」となると力が入っちゃうので、「どれだけ抜くか」みたいなのは大事なテーマでしたね。

田口そうですね。自分一人でやっているとあそこもここも、ってどんどん気になって要素を足してしまうのですが、この「Y」ではちょっと気になるけど、どうしようかなっていうことを金子さんに相談すると「いや、これくらいでいいんじゃないですか。よしとしましょう。」という塩梅で進むことができる(笑)。

Yの服づくり

─── 「Y」の服づくりにおいてはユニセックスでデイリーに着ることができる、ということが重要だと思いますが、課題だったことなどはありますか。

金子一番課題だったのは男性と女性との境界線をぼかすところです。形もサイズも違う身体で本当に共用して着られる服って、どういうバランスだろうかと。本来であればウィメンズとメンズで同じデザインでもパターンは変えなきゃいけない。でも「Y」では身体のサイズが違っても同じパターンで作りたい。田口さんとそこをずっとやりとりしている中で「じゃあこういう服がベースだったら行けるかも」というアイデアをいろいろ見てもらって。だいたいは僕が着ていたものだったりするのですが、たとえば「Tの字」でできている服って肩の位置が無いから、かなり自由に着られちゃうじゃないですか。「Y」の服を作る上ではそういう視点が必要でした。広くユニセックスという意味では大きなサイズを買っておけば僕も田口さんも着られるんですけど、そういうことじゃなくて、ちゃんと「良いバランスのところ」を狙いながら作るのとそうじゃないのとはやっぱり全然違うんですよね。

─── 大は小を兼ねるからユニセックスとして兼用できる。というのではなく、もともと兼用できる「いいバランス」を狙って作られたということですよね。

田口そうです。男性と女性、体格を含めて落としどころはどこかっていう見方です。「Y」はサイズピッチに関しても「1」と「4」の2つのサイズだけなので、通常より2サイズ、3サイズくらいのピッチがあるんですよね。その落としどころ見つけるっていうのは、一つひとつのアイテムをいろんな人に着てもらいながら調整していく感じでした。



ルックに表現された時代性

─── ルックを見ると、大きいサイズと小さいサイズ、背の大きい人と小さい人、ちゃんとどちらにも対応できる丁度いいところを実際に着て見せてくれていて、本当にわかりやすく作られているなと思いました。

田口「Y」を初めて展示会に出した時、古着とかメンズっぽいものを着たいのだけれど、どこで買っていいかがわからないという女性が意外と喜んでくれて。たとえばスウェットなら大きい「4」のサイズをゆったり着るアンバランスさがかわいいとか、カバーオールは長くてハーフコートっぽい感じになるのだけど、そのボリューム感が良いとか、本来はメンズ向けかもしれないサイズのルーズなシルエットって、女性の着方によっては全然見え方が違ってくるような「Y」ならではの特徴があると思うんです。

金子それにこの時代だからこそ「Y」が生まれたっていうところもあるかなって思います。今はこれというトレンドもないし、女性でもメンズを着るのが当たり前で、サイズ感もかなり多様化していますよね。そういう時代感を集約したというか、いったんこの段階で僕たちとして総括してみた感じというか。

田口そうですね。

金子基本的には何でもありだけど「女性的にはやっぱりここまで」って絶対あるじゃないですか。「これ以上だと男性だ」みたいな感覚とか。自然とそういうことをお互い話して作ってきたので、本当に時代を総括して考えた今の服という気がします。概念というか、フィーリングでサイズを選ぶような感覚は昔とは完璧に違うので、どのアイテムに対しても「私はSサイズです」みたいな話には戻らないと思うんですよね。もちろんタイトフィットが流行る、とかはあると思うんですけど、だとしてもフィーリングやスタイルで選ぶみたいな感覚は続いていく。こういう概念はすごくこれからの服を表すんじゃないかなって。

価値を意味づけるもの

─── 素材自体にフォーカスすると、どのような特徴があげられますか?

田口「Y」はオーガニックコットンとかリサイクルポリエステルとか、使う素材を「サスティナブル」というテーマで括っているのですが、YLÈVEよりも価格は抑えたデイリーウェアだけど、ただ安ければいいわけではないって考えたときに、服を作ること以外の「環境」にも配慮しつつ、自分が買う商品としての「質」に納得できるものにしたかったんです。一概にオーガニックコットンといってもそれなりに良い綿じゃないと認証が取れないですし、リサイクルナイロンとか、安い=悪いではない落としどころで、納得して買えるようなものでありたいと思っていたので、素材はかなり深掘りしました。

─── ジェンダーという意味での時代性の取り入れ方と、環境への視点という社会へのかかわり方で「Y」が形づくられている。

金子そうですね。ものの価値とのリンクというか、意味付けというか。そういうものが、今の時代背景のひとつの特徴かなって思います。

限られているからこそ

─── 「Y」のコレクションは徹底してホワイトとネイビーで統一されていますが、なぜその2色なのでしょうか。

田口YLÈVEのブランドカラーがネイビーだという以外にも理由はいろいろあるのですが、「Y」はカラーリングも含めていろいろやってしまうと、もしかしてすごく普通になってしまう、汎用性を狙ってやろうとしていることがぼやけてしまうのかなって思ったんです。たとえばサンプルはネイビーは「4」、ホワイトは「1」のサイズで作っていて、色だけでサイズもわかるのでルック上でサイズミックス、ジェンダレスをわかりやすく表現することができています。

金子それに田口さん=ネイビーみたいなところもあるじゃないですか。ちょっと赤味の効いた(笑)。でもこうして使う用途を考えながら色を絞っていくと、ネイビーって本当に汎用性が高いですよね。TPOも選ばないですし。じゃあブラックでもって思うのですが、やっぱりちょっと強すぎたり、全身で着たらモードっぽさがでるキャラクターがある。そういう意味でもネイビーは癖がなくて、誰でもハマる気がして、「Y」の中でこれ以上の色は増やさなくてもいいのかなって。

田口そうですよね。一通り揃ってきた段階で一度全体の振り返りをして、グレーも検討したのですが、アイテムごとにホワイトとネイビーの色の諧調を合わせるだけでも大変で、作業を増やすとやろうとしていることがぼやけてくるなっていうこともあるので、結果的にこの2色で行こうということになりました。

─── カラー数を絞ることで汎用性を確保しているんですね。これからのシーズンが楽しみになるお話でした。今日はありがとうございました。

金子ありがとうございました。自分たちもこうして質問してもらうことで初めて気が付くこともあるんですよね。やっているとわからないことというか、無意識で。

田口つながると気付いてなかった点と点の発見もあって、おもしろかったです。

 

 

「Y」の着こなし

取材当日、それぞれに着用するアイテムを選んでいただきました。金子さんはサイズ「1」のモックネックTシャツにサイズ「4」のボクシーなブルゾンと裾を絞ったイージーパンツを。田口さんはサイズ「1」のロングスリーブTシャツとウェスト位置がアジャスト可能なストレートパンツにサイズ「4」のオーガニックコットンのシャツをオーバーサイズで合わせて。

たった2つだけのサイズだからこそ、たった2つだけのカラーだからこそ得られる自由。ジェンダー、エイジ、ジャンル、シーンを軽やかに越境する「Y」のウェアが始まります。

金子さん着用:ブルゾン ¥34,100, モックネックTシャツ ¥9,900, イージーパンツ ¥27,500
田口さん着用:ロングスリーブTシャツ ¥12,100, ストレートパンツ ¥30,800, ワークシャツ ¥25,300

Y ワイ
時代をつかむ確かな感覚で、ファッションにまつわるディレクションからバイイングまで幅広く活躍する金子恵治氏と、YLÈVEデザイナー田口令子との対話から生まれた新ライン。ジェンダー、エイジ、ジャンル、シーンを問わず自由に越境するウェアが展開される。

 

Photography by Daisaku Kikuchi
Text by Soya Oikawa