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HOW DESIGNERS MAKE CLOTHES

HOW DESIGNERS MAKE CLOTHES

2023.09.29

HOW DESIGNERS MAKE CLOTHES

Conversation with “Y”

YLÉVEのカジュアルラインとして2023年S/Sにデビューを果たした「Y」による初のA/Wコレクションについて、
アドバイザーの金子恵治さんと、デザイナーの田口令子さんにお話を伺いました。

初のA/Wコレクション

─── いよいよ「Y」にとって初のA/Wコレクションですね。新しく加わったデザインもいくつかあると思うのですが、どのようなバランスに仕上がっているのでしょうか。

田口 基本的にコレクションはアイテムを継続させながら構成していくという前提で作っているので、新型としてのデザインはそんなに多くないかもしれませんね。

金子 シーズンを迎えるごとにマイナーチェンジするものや、充分に行き渡ったと思えるアイテムがあれば新しいアイデアと入れ替えたりして、という感じかな。その時々の気分みたいなものは意識しつつ。

─── ということは最初のコレクション(2023S/S)は非常に重要だったのでは? 軸になるところをまずしっかり作って、そこからフィーリングを調整しながら以降のコレクションを展開していくという形ですよね。

金子 そうですね。めちゃくちゃ重要でした。最初のコレクションの企画を振り返ってみると(シーズンを越えて)ずっと有ってもいいよね、というブランドの軸というか「Y」のスタンダードみたいなものをまず整えた感じです。なので今回のA/Wの企画では新型を考えるのと同じくらい、削るアイテムにも悩みました。

一枚で完結する服

─── ではそうしてA/Wに加えられた新作の中から、まずはドライバーズニットとUS.NAVY型のゴブセーターについてお話を聞かせてください。特徴としてはミリタリーテイストだと言えそうですが。

金子 両方ともミリタリーをベースにしていて、ドライバーズニットの方はトラックの運転手がよく着ていたようなスタイルです。運転の時でも使いやすい便利なニットというか。機能に特化したアイテムということでA/Wの企画として最初に上がっていたアイデアだったんです。

─── 一般的にスタンダードといえばクルーネックのニットをイメージしてしまうのですが、今回のコレクションには含まれていません。A/Wのニットとしてこれらを選んだ理由というのは?

金子 僕は一枚で完結するほうがいいなって思っているんですよね。そうなると襟があるほうがいい。たとえばクルーネックだとその下にTシャツとかシャツを合わせられるな、とかいろんなバリエーションが生まれますが、モックネックみたいなデザインのニットってサクッと着ちゃえば、もうそれで完結するので。S/Sの時に作っていたスウェットのモックネックとかも、僕はすごい便利だと思っていたんです。何も考えずに着れるなって。だったらニットもそういうモック系がいいのかなって。

「Y」とサスティナブル

───「編み」に着目してみると、いずれもハイでもローでもないミドルゲージぐらいの厚みだと思いますが。特別な意図があるのでしょうか。

田口 そうですね。ちょっと詰まった感じのある綺麗なノンミュールジングウールの糸を束ねて編んでいるのでカジュアルな肉厚感ではあるんですけど、ほどほど品もあってナチュラルな風合いだと思います。

ナチュラルな風合いのドライバーズニット
NON MULESING WOOL DRIVERS KNIT ¥36,300

─── ノンミュールジングウールというのは?

田口 一般的に効率重視で品種改良された羊は、皮膚の面積を広くするために体中に深いシワがあって衛生的に問題が起こりやすい。なので予防も兼ねて糞尿が溜まりやすいお尻のあたりの皮膚やお肉を切り取る「ミュールジング」というのが広く行われてきました。それに対してエシカルな視点から羊に苦痛を与えない手法で生産されているのが、このノンミュールジングウールです。手間暇はかかって生産量も少なくなるのですが、何よりも羊にはその方がやさしいので。

───「やさしい」といえば他にもリサイクルナイロン、リサイクルポリエステル、オーガニックコットンなど、コレクション全体を見渡しても確かに環境にやさしいものを積極的に使用しているように感じます。

田口 「Y」には基本的にサステナブルな原料を使うというコンセプトがあって、素材にこだわる難しさというのもあるんですけど、価格も含めてプロダクトとしてちゃんと考えられているっていうことと、どんな背景のものであるかっていうことが大切だと思っています。そういうプロダクトとしても、また環境という面から見てもいい素材を選んで行きたいと。

素材の進化とパターンの関係

─── スウェットシリーズとしてハーフジップのプルオーバーとジョガーパンツが登場しています。

金子 ハーフジップに関してはS/Sの時にモックネックタイプを既に作っているのですが、A/Wで考えてもやっぱり便利だなって思っていて。要はスウェット素材って結構暖かいので、いろいろと1日を過ごす中で、外と中の温度差が激しいような場面ってありますよね。そういう時にジップの開閉具合で体温を調節できるっていうのは、日本で暮らしていると絶対必要なところかなって。
もっと言えば脱ぎ着です。ニットとかに比べたらスウェットってそんなに伸縮性に富んでいるわけでもないから、サイズとか生地の硬さによっては、わりと脱ぎ着がめんどくさかったりします。その点ジップになっていれば思いっきり開くので便利ですよね。

─── ジョガーパンツのねらいというのは?

金子 スウェットパンツもいろんなものがあると思うんですけど、じゃあしっくりくるものってどれなの?っていう話をすると、実はあまり候補が出てこないんじゃないか。たとえば良く知られているアスレチックメーカーのクラシックなタイプはかっこいいとは思うんですけど、いまいち穿きにくい。ウェスト位置を無理やりドローコードで引っ張ってとめてもうまく股の位置が合わなくて動きにくいとか。
でも時代が進んで1990年代ぐらいになるとかなり作りが簡素化されるんですが、簡素化されることで穿きやすくなったり着やすくなるものって、意外とあるんですよね。そういうことを意識しながら、太くなくて、ちゃんとレングスもあって、股上も深すぎないバランスをイメージして作りました。

─── 簡素化していくことによって穿きやすくなるものがある、というのはおもしろいプロセスですね。もう少し踏み込むと、具体的になんか違うな、穿きにくいなって思わせていた原因はパターンだったのでしょうか?

金子 昔は素材自体が良くなかったんです。1950年代ぐらいのスウェットは全然伸び縮みしなくて、ただ裏毛で暖かいみたいな。そういう素材自体の品質があまり良くないから、結局パターンで立体的にして、かつジャストで着るような設計になっていたんです。それから素材がだんだん伸び縮みするようになるとパターンの考え方もそんなに立体的にしないで、シンプルになっていった。だから素材の進化とパターンって、素材が良くなるとパターンが退化してくというか、簡素になっていくものがあるというのは、歴史を見ていくと気が付くところだったりします。

───「Y」のものづくりの裏にある近現代の時代考察がとてもおもしろいです。

金子 その時代だから生まれた素材の活かし方っていうのはありますよね。凝ったディテールになるものもそうです。でも「Y」においては今の時代にあえて再現する必要もないなって。その時代だから仕方なくやってたんだけど、別に今は仕方なく無いじゃないですか。肩の力を抜いて、時代も素材も作り方もフラットに考えようよ、という感じです。

田口 「Y」を求めてくださる方にも同じようなテンションを感じますよね。「ほどほどに」という感覚はもちろん意図してやっていることだけれど、実際に作る側と受け手がそのマインドをプロダクトを通して感じあえるっていうのは結構大事なことだなって思います。

道具としての服

─── アウターでは、リサイクルナイロンのベンチコートが加わりました。

田口 「Y」はウールのコートっていう感じでもないし、作り込まれたギアともちょっと違うのかなって思っていて。そうすると機能的で、軽くて暖かいベンチコートがちょうどいい落とし所なのかなって。

─── おしゃれのためではなく、実用性重視?

金子 たぶん「Y」のアイテムって全部おしゃれのためのものじゃないと思います。日常着を問うというか、街着の道具っていう裏テーマがあるんですよね。

田口 はい。ちょうどいい日常着。

金子 おしゃれの裏に作る、街着の道具(笑)。

─── おしゃれの裏側で身体を暖めようと思ったとき、そこにベンチコートがあったという感じですか?

田口 一度着たら脱げなくなってしまうような(笑)。

金子 でも考えているときは、本当にそういうテンションでしたよね。玄関先に掛けてあるととても便利だし、その辺にふらっといく時にパッと着られる。だからクローゼットに入れておくというよりは、コンディションも気にせずに身近なところに置いてあって、バサッと着て暖かい。みたいな、シンプルにそういうところでいいよねって。

田口 着るのにも扱うのにもいろいろストレスがないっていうのが良いですよね。それから余談ですけど、このベンチコートの企画のときに資料としての古着を購入したら、ネームに「Y」って書いてあったんです(笑)。

─── え!?

田口 たぶん前の所有者のイニシャルだと思います。実は私、先日旅先の砂浜で枯れ木が「Y」と記しているところにも遭遇していて、なぜか「Y」を始めてからよく「Y」のサインを受け取るようになってしまったようで(笑)。

金子 これを引き当てる確率ってどんな確率なんですか(笑)。

境界のあいまいさから生まれるもの

─── ここまで見てきたニットやスウェットにしても、このベンチコートにしても「ジェンダー」という意味ではどうなんでしょうか。イメージとしては比較的メンズっぽいのかなっていう気がするのですが。

田口 そもそも、ワークとかユーティリティウェアっていうのはメンズ派生のものがほとんどで、ウィメンズから発生したものってあまり無いんですよね。なのでおっしゃるようにメンズがルーツになっているっていうのはあります。でも私もメンズの服を抵抗なく買って着たりしますし、そういう意味では、今この時代はすごくジェンダーの境界線が溶けていっているので、ルーツがメンズであるアイテムに対して、サイズでのフィッティングが1なのか4なのか(*)、シルエットとしてどう着こなすのかっていうのは、逆に女性の方が振り幅が大きいと考えています。
*「Y」はすべてのアイテムサイズが1と4の2つのサイズのみで展開されています。

─── メンズ由来だとしても、現代においてはむしろ多様性をもたらしていると。

田口 そうですね。なので「Y」のアイテムは見ようによっては只々メンズのアイテムが並んでいるっていう。いや、見ように寄らなくてもか(笑)。
でもたとえば女性がミリタリーやワークウェアの古着が欲しいなって思ったとき、古着屋に行っても、そういうウェアってメンズサイズが多いんです。女性用のサイズは探すのが結構大変で、さらに(女性が着ることを想定していないデザインを)どうやって着こなすかっていうのもあるので、そういう意味でも「Y」は今の女性たちに届くものなのかなって思っています。

─── そういったユーティリティとかジェンダーの境界をあいまいにしてしまうような試みの中で、季節感についてはどう考えているのかをお聞きしたいです。季節感も均していきたいですか?

金子 僕は「Y」は通年で着れるものっていう意識が高いです。そこが軸になりながら暑い時季、寒い時季のアイテムを少しずつ足すような感覚というか。僕自身のクローゼットも秋も冬も夏もあまり変わらないんですよ。ずっと冬のコートがよく見えるところに居たりしますし。いわゆる衣替えのような感覚があまり無いから、季節をそんなに考えないんですよね。寒ければちょっと暖かいのを着て、ぐらいの感じというか。

 

それぞれの「Y」スタイル

─── 今日もそれぞれの楽しみ方で「Y」を着ていらっしゃると思いますが、何か意識されたことはありますか。

金子 僕はこの全身ネイビーがちょっとおすすめなんですよね。男の人だと本当にネイビーだけ選んでおけば、カラーの合わせ方を気にする必要もない。普通は同じネイビーでもアイテムや素材によってニュアンスが変わりますが、「Y」ならそのズレもちょうど良くまとまるというか、なんでも合うっていうか。何着か適当に買っても組み合わせできるので、すごい便利だなって。悩まなくていいんです(笑)。
モックネックTシャツ ¥9,900, ハーフジップスウェット ¥24,200, モールスキンイージーパンツ ¥29,700

田口 私は、ドライバーズニットを着ているのですが、女性が着るドライバーズニットの着方って、男性の着方とはちょっと違いますよね。今日はたまたまサイズ1を着ているけど、ネイビーの4でもよかった。女性ならではのコーディネートのバランス感というか、選ぶサイズとボリューム感によってできるシルエットでの着方というか、同じアイテムでもサイズによって別のようなものになる。そういうところが「Y」を女性が着るおもしろさだと思います。
ロングスリーブTシャツ ¥12,100, ドライバーズニット ¥36,300, チノパンツ ¥30,800

世界の時代性やものづくりの現場としっかり向き合いながら、着るものにとってストレスフリーな実用性を追求する「Y」の自由な服。初となるA/Wシーズンのラインナップをどうぞお楽しみください。

Y ワイ
時代をつかむ確かな感覚で、ファッションにまつわるディレクションからバイイングまで幅広く活躍する金子恵治氏と、YLÈVEデザイナー田口令子との対話から生まれた新ライン。ジェンダー、エイジ、ジャンル、シーンを問わず自由に越境するウェアが展開される。

 

Photography by Ai Miwa
Text by Soya Oikawa